「さあ、曜日あて七段の時間がやってまいりました。
皆さんの前に並んでいるのはベストエイトに勝ち進んだ中学生たちです。
小学生も頑張りましたが、惜しくもベスト16で全員敗れてしまいました。
これから8名が、2人1組になって対戦を行ないます。
七段の試合と、教材講義の進行は、わたくし南天馬建設平和台支店の鈴木一平が行います。
どうぞよろしくお願いいたします。
準々決勝の前に、簡単にルールをご説明しましょう。
正面をご覧ください。7つの曜日が円形に並んで書かれた広い紙が張ってあります。
試合は4組同時に行いますので、4枚横に並んでいます。
この紙のことを、七段表といいます。
七段表の両脇に、選手が1人ずつ立っていますね。
七段表の前にある椅子にそれぞれ座っているのは審判です。
くじ引きのような丸い穴があいた箱を持っているこの生徒は、読み手です。
読み手は七段箱と呼ばれるこの箱の中から、年月日と曜日が書かれた紙を一枚取り出して読み上げます。
年月日を聞いて、正しい曜日を早く押さえた人が勝ちです。
試合開始の合図は主審である私が行い、そのときに勝負の回数もいいます。
五回勝負…というときは、曜日あてを5回行います。3回先に勝った方が勝ちです。
答えが同時であったり、二人とも間違っていたりすると、決着がつきませんね。
そのときそれぞれの審判は主審に、「2対2です」とか「1対1です」などといいます。
主審は状況を判断して、何回勝負を行なうか決めます。
主審が、たとえば「曜日あて七段、1回勝負、はじめ」というと、その1回で勝負かつかなければもう一度行ないます。
しかし、回数を言わず、「曜日あて七段、勝負、はじめ」というと、二人とも間違うなど勝負がつかない場合は、二人とも失格になります。
それでは、ただ今から、曜日あて七段、準々決勝をはじめます。
準備はいいかな…
曜日あて七段…五回勝負、はじめ!…」
「2007年8月31日…」
読み手が読み終わると同時に七段表を手のひらで押さえる8つの音が響く。
全員が答えたことを確認した読み手は、
「…金曜日」と正解をいう。
審判は右が勝ったら右手の指を、左が勝ったら左手の指を1本立てる。
五回勝負が終わると、二組の審判から、「2対2です」と声が上がった。
主審の鈴木は、読み手にもう一回行うことを告げると、
「曜日あて七段、1回勝負、はじめ!」といった。
「2008年10月26日…」
4人が答えたことを確認した読み手は、
「…日曜日」と正解をいう。
宮田君の勝ちです。
西村さんの勝ちです。
山田君の勝ちです。
川中君の勝ちです。
それぞれの審判たちが勝者の名前を告げる。
「ベストフォーが決まりました。
さて、生徒たちは一体どうやって曜日をあてているのでしょうか?・・・
準決勝に入る前に、曜日あて七段の方法についてご説明しましょう。
"曜日あて七段"というのは、昨年の全国大会で発表された教材ゲームで、長崎の亀山社中ならぬ亀山クラブの教材作家、浦さんによって考案されたものです。
最初は"モド・セブン"という名前で、子供会や老人クラブの、ちょっと高度なレクリエーションゲームとして親しまれていました。
"モド・セブン(mod7)"というのは、数学の用語で、7で割った余りを意味します。
七段は、もともと数学に親しんだり、暗算力を鍛えたりするための教材なのです。
私がはじめて七段を知ったとき、その実用性の高さに驚いてしまいました。
カレンダーが、頭の中にできてしまうのです。
今年だけでなく、去年も、来年のカレンダーもそうです。
訓練すれば、自分が生まれた月のカレンダーも、100歳の誕生日を迎える月のカレンダーも思い浮かべることができますよ。
そのポイントは、"七段"を知ることにあります。
ご覧ください。2007年12月のカレンダーです。
おや?・・・
1日の左側に、ゼロ(0)日が書いてありますね。前の月の最後の日のことです。
ゼロ(0)日を頭に入れておくのも、七段の特徴です。
さて、かけ算の七の段が並んでいるのは、何曜日ですか?
金曜日ですね。
"2007年12月の七段は金曜日"、と言ってみてください。
これが七段の1番目の意味です。
七段にはもう1つの意味があります。
7の倍数のことです。
"2007年12月の七段は、0(ゼロ)日、7日、14日、21日、28日"。声に出して言ってみてください。
これが七段の2番目の意味です。
その月の七段がわかれば、その月のカレンダーが頭の中にできます。
早速、2007年12月の曜日あてを、指で数える方法でやってみましょう。
2007年12月18日は?・・・
18日は、七段プラス4です。14日という七段からの間隔はプラス4ですね。
指を4本立てたら、2007年12月の七段を声に出していいます。
"金"
そして立てた指を順に折り曲げながら、曜日を順番にいいます。
"土"、"日"、"月"、"火曜日"が答えです。
七段表があると、もっとわかりやすいですよ。
読み手が "2007年12月・・・"といったら、手のひらを2007年12月の七段である"金"の上に移動させます。
"・・・18日"と読み手がいったら、心の中で七段である"14"といい、プラスの時計回りに"15"、"16"、"17"、"18"と4つだけ曜日を移動させます。
そして4番目の曜日である"火"を手のひらで押さえます。
2007年12月の七段は金曜日と皆さんは憶えられたと思いますが、・・・忘れて結構です。
もっと大事な七段があるからです。年七段(ねんななだん)です。月の七段よりも重要です。
2007年の七段、これを1つだけ憶えてください。これを憶えていたら、2007年すべてのカレンダーを思い浮かべることができます。
2007年の七段とは、2007年3月の七段のことです。
"3月"ですよ。
2007年3月の七段は、"水曜日"です。
2007年3月の七段が分かれば、2007年の他の月の七段がすべて分かります。
曜日あて七段で最も重要な表がこれです。これだけは暗記してもらう必要があります。
四角形が4行3列の格子状に並んでいます。カレンダーです。
1行目左から1月、2月、3月。
2行目左から4月、5月、6月。
3月目左から7月、8月、9月。
4月目左から10月、11月、12月。
よろしいですね。
曜日あて七段で最も重要な年七段とは、3月の七段でしたね。この表のいちばん右上です。
3月の四角の中にゼロ(0)と書きましょう。ゼロは基準となる曜日を示しています。
2007年でいえば、水曜日のことです。
表の右端、3列目に注目してください。上から、3月、6月、9月、12月です。
3月は基準となる年七段の意味で、ゼロ(0)と書いてあります。
その下の6月は、プラス1(+1)です。年七段プラス1は、木曜日です。2007年6月の七段は、木曜日です。
その下の9月は、プラス2(+2)です。年七段プラス2は、金曜日です。2007年9月の七段は、金曜日です。
その下の12月の七段は、9月の七段と同じになります。プラス2(+2)、金曜日です。憶えなくてよかったでしょう?
さて、9月の次は、7月に行きます。5月8月11月と続く道路の下にあるガードをくぐって、7月に出るイメージです。
9月から・・・ガードをくぐって・・・7月まで、うまく出られましたか?
さて、7月は、プラス3(+3)です。年七段プラス3は、土曜日です。2007年7月の七段は、土曜日です。
その上の4月の七段は、7月の七段と同じになります。プラス3(+3)、土曜日です。
いま表の左端、1列目に来ていますね。1列目を憶えてしまいましょう。
すべて"3"に関係があります。
4月と7月はプラス3(+3)でした。その上下の1月と10月はマイナス3(−3)です。
マイナス3というのは、七段では、プラス4と同じになります。
ゼロから6までの7個の数字が時計回りに順に並んでいるこの表を見てください。
一番上がゼロ(0)。
右回りに +1、+2、+3、+4、+5、+6ときて、また0に戻ります。
左回りに見てみましょう。
-1、-2、-3
プラス4は、マイナス3と同じことを示しています。
2007年の年七段は水曜日ですから、ゼロの位置は水曜日を表しています。
これを基準に、右回りに、"木"、"金"、"土"、"日"、"月"、"火"となり、"水"に戻ります。
マイナス3はプラス4と同じで、2007年は"日曜日"になります。
1月と10月の七段は共通です。
年七段(3月の七段)からみるとそれはマイナス3(またはプラス4)を示しています。
残っているのは2列目ですね。
一番下の11月に注目してください。憶えてください。11月はゼロ(0)です。3月の七段である年七段と共通です。
8月と5月を飛び越えて、一番上の2月に注目してください。2月の七段は11月と同じ、つまりゼロ(0)です。
もう一度、一番下の11月に注目してください。その上の8月は、先ほどの丸い表で、時計と反対回りに1つ移動します。
11月はゼロ(0)、その上の8月は、マイナス1(-1)です。年七段マイナス1は、火曜日です。
さらにその上の5月は、マイナス2(-2)です。年七段マイナス2は、月曜日です。
そしてマイナス3は、1列目の1月と10月の七段で、2007年では日曜日でしたね。
年七段について重要なこと、あと2つあります。
がんばって憶えてください。
1つ目は、来年の年七段についてです。
来年の年七段は、今年の年七段プラス1です。憶えやすいですね。
来年がうるう年のときは、来年の年七段は、今年の年七段プラス2です。
2007年の年七段は水曜日でしたね。
1年前の2006年の年七段は?・・・火曜日です。
2年前の2005年の年七段は?・・・月曜日です。
突然、問題です!
2005年10月31日は何曜日かわかります?
七段表を使ってみましょうか。
2007年の年七段である"水"の位置に手のひらを持ってきます。
2005年・・・と聞いたら、マイナス2ですから、時計と反対回りに2つ移動します。"月"の上に手のひらがあります。
月曜日は、2005年の年七段であり、2005年3月の七段です。
10月・・・と聞いたら、プラス4ですから、時計回りに4つ移動します。時計と反対回りに3つ移動してもOKです。
"金"の上に手のひらがあります。
31日・・・と聞いたら、七段(28日)プラス3ですから、時計回りに3つ移動します。
そして"月"を手のひらで押さえます。
2005年10月31日は月曜日です。早く押さえた人が勝ちですよ。
これを、指を使って計算するとどうなるでしょうか。
2005年・・・と聞いたら、マイナス2ですから、マイナスを示す左手の指を2本立てます。
10月・・・と聞いたら、プラス4ですから、右手の指を4本立てます。
左手はマイナス2、右手はプラス4を示しているので、打ち消しあって、両手の指を2本ずつ折り曲げます。
右手が2本立っている状態です。
31日・・・と聞いたら、七段(28日)プラス3ですから、右手に3本を加えて5とします。
5は親指を1本立てます(6は親指と人差し指を立てます)。
そして基準は2007年の七段である水曜日でしたから、そこから5つプラスの方向に移動するか、またはマイナスの方向に2つ移動して、月曜日という答えを出します。
年七段について重要なこと、最後の1つです。
単純に憶えてください。
うるう年の1月と2月の七段は、さらにマイナス1します。
通常は、1月は年七段マイナス3、そして2月は年七段と同じでした。
うるう年は、それからさらにマイナス1して、1月は年七段マイナス4(つまりプラス3)、2月は年七段マイナス1となります。
うるう年では、2月の七段は8月と同じになります。そして1月は、4月、7月と同じなのです。
それでは、ただ今から、曜日あて七段、準決勝をはじめます。
皆さんも生徒たちと一緒に曜日あてに挑戦してみてください。
準備はいいかな…
曜日あて七段…五回勝負、はじめ!…」
「決勝に残ったのは、宮田君、川中君です。
さて、決勝戦は、会場のみなさんに1問ずつ問題を出していただきたいと思います。
10年分のカレンダーがファイルに閉じてあります。どなたか、お願いできませんか?・・・
では2列目の女性の方、・・・お名前は?・・・宮本さんですね。
七段箱を使わず、手帳のカレンダーなどを使うときは、選手の承認が必要です。"読み手は○○さんです。承認しますか?"と主審が聞きます。
選手は承認するときは片手を挙げます。どちらかの選手が手を上げないときは、読み手は他の人に交代しなければなりません。
これは読み手がどちらかの選手にサインを送るなどフェアプレイの妨げとなるような行為を防止するためです。
では、選手に聞きます。"読み手は宮本さんです。承認しますか?"・・・
二人とも承認の手を上げました。
それでは、宮本さん、お願いします」
「1999年・・・」
決勝戦。最終問題。
白黒のゴマひげの男は、ゆったりと言った。
「それでは、この日が何曜日か当ててください。1944年1月1日。俺の誕生日や。」
二人の中学生は五秒ほど考えて、一人は日曜日を、一人は土曜日を押さえた。
「てっちゃん、パソコンでしらべられたか?」
男性は横の席に座っている若者のノートパソコンをのぞきこむ。
「ちょっと古すぎて設定できませんね。いまインターネットでしらべています。」
「古すぎるとは何だ。まだ20年前の話やないか。」場内は爆笑に包まれた。
「あ、ありました。」てっちゃんが顔をあげる。
「1944年1月1日は、土曜日です。」
「よっしゃあ。」正解した中学生は空手の構えのようなポーズを取った。
もう一人の中学生は、頭をかかえて「しまった。うるう年だ。」と残念がっている。
「2007年度、曜日あて七段。優勝は宮田君です」
鈴木が壇上に戻る。
「最後の問題の解説をしましょう。とても難しい問題でした。
ここでは20世紀の七段がポイントになります。
20世紀の七段は、19世紀最後の年である1900年3月の七段です。
これは憶えておく必要があります。20世紀の七段は水曜日です。
1944年は、44年後ですね。
44に近い7の倍数は42ですから、44は七段プラス2です。
右手の指を2本立てます。
この44年間にうるう年は何回あったでしょうか。44を4で割ると11です。
11は七段プラス4です。
2に4を足して6ですね。右手の親指と人差し指を立てます。
1月はマイナス3ですね。6から3を引いて、右手の指が3本立った状態です。
そして、優勝した宮田君が行ったのは、さらに1を引いたのです。
なぜなら、1944年は、うるう年だからです。4で割り切れるでしょう?右手の指が2本立った状態です。
こうして1944年1月の七段が求まりました。
あとは日付を1日足します。指が3本立っていますね。
20世紀の七段では"水曜日"でした。指を折り曲げていきます。"木"、"金"、"土曜日"です。
1944年1月1日は土曜日です。
21世紀の七段は、20世紀最後の年である2000年の3月の七段です。これは火曜日です。
2007年の年七段は水曜日と憶えましたが、・・・これも忘れていいですね。
2007年は、21世紀の七段プラスゼロ。7年ですからね。
そしてその間のうるう年の数は1ですね。4の倍数は1個しか入っていません。
ゼロ足す1は1です。
21世紀の七段である火曜日に1をプラスして、2007年の年七段が水曜日であることがわかりますね。
ちなみに、2000年はうるう年でした。
1900年や2100年はうるう年ではありません。
西暦年が100で割り切れるとき、その年はうるう年にしないという決まりがあるからです。
しかし例外があって、400でも割り切れるときは、うるう年になります。
だから下2桁がゼロの年に、2月29日があったのは、1600年2月29日以来400年ぶりの出来事だったのですね。
日本では関が原の戦いがあった年です。
次回は2400年の2月までこういうことはないそうです。
さて、曜日あて七段、いかがでしたでしょうか。
とても楽しく、実用的な教材です。
みなさんもどうぞ、お試しになってください。
宮田君、優勝おめでとう」
<第10話 終>